お金の価値

お金のほんとうの価値について、ぜんぜんわかっていなかった。示された価格分のお金を払えば、品物が手に入る。それはもちろんわかっていたんだけれど、誰かが差し出すお金には、それぞれ目には見えない重さがある。接客業のバイトをしていたとき、普通にお金を受け取って、レジに入れていた。何のことはない、お金はお金だ。でも障害を抱えて困窮するようになってから、稼ぐということの大変さ、人によってある物に対して感じる価値が異なっていることに気づけた。すごく面白くて大事にしている本でも、古書店に行くと普通に１００円で売っていて簡単に手に入ったりする。僕が持っている同じ本を売っても５円とか１０円だろう。誰かに大事にされている物というのは幸せだ。

箱も説明書もない、傷んだ中古ゲームが１７００円くらいで売っていて、すごく興味をひかれた。財布の中を見ると、１５００円あった。買えないか、と諦めたとき、割引券を持っていたことに気づいた。それを足せばゲームが買えた。お金がないときは、そんな１００円、２００円のことがすごく大きいし、僕にとってその１７００円は重くて、すごくうれしい価値だった。バイトで、売る側だったときは、その重さをちっともわかっていなかった。レジに表示された金額を機械的に受け取っていただけだ。でも相手にとっては、ようやく集まったお金かもしれないし、それで買えたものは、たとえ僕にはたいしたものには思えなくても、その子にとってはすごく欲しくて大切なものになるのだ。いくらだろうが、ぼろぼろだろうが、大事にされている物は幸せだし、なによりそこにある気持ちが素敵だと思う。